2日目は金曜日。8時半に起きるつもりが目が覚めたら10時半だった。メキシコとの時差が2時間だから、きっちり2時間寝坊をなぞったわけだ。今回は以前に借りてたアパートの大家さんのお宅にお世話になっている。私以外にもアメリカ人の下宿生が3人いるらしいけど、これまでにまだ1人しか見てない。
ブエノスアイレスのエレベーターは、多くが年季の入ったアコーディオン式(バンドネオン式?)のドア(カーテン)である。慣れないうちは、エレベーターが止まってもつい2秒ほどぼーっとしてしまう。もちろん自動では開かないので、ああそうだったと思い出して、慌てて自分でドアを横にたたんで開ける。閉めるときにも注意が必要である。たいていはエレベーター自体のドアと階ごとのドアとが二重になっているのだが、これがつい自分に近い手前側のドアを先に閉めてしまうのである。そうすると、当然二つ目のドアが閉められないのである。まったく頭を使う。
今日は用事が終わったのが夕方の4時頃だったため、それから資料館の横にある小さな店で遅めの昼食をとった。私の限定的な経験に基づく独断によれば、ここの店のエンパナーダはブエノス一美味しい。そしてブエノス一安い。食事をするには中途半端な時間だったので、客は私一人だった。お腹がすいていた私は、鶏肉のエンパナーダと、ミートソースかけラビオリと、ボルドのお茶を注文した。ボルドは南米原産の薬草で、肝臓にいいと聞くけど、この辺りで普段よく飲まれているお茶の一つである。エンパナーダはしみじみ美味しかった。ラビオリも文句なしにうまかった。生パスタって、なんだか鍋焼きうどん的な温かさがあって幸せだ。イタリアの食文化の影響が色濃く見られるアルゼンチンだが、私は中でも手打ちの生パスタがとても好きである。
ごはんを食べて外に出たら、もう5時をまわっていた。特にやることも思いつかなかったので、映画を観にいくことにした。サンタフェ通りの小さな映画館に行ってみたら、なんと「無期休業」の看板がかかっていた。とても残念である。仕方がないのでパレルモにある映画館に行った。残念ながらアルゼンチン映画はやってなかったのだけど、ちょうどあと3分でウッディ・アレンの "To Rome with love" が始まるところだったので、それに決めた。映画はとても素敵だった。ちょっと予定外に笑いすぎてしまったのだけど、アルゼンチンのスペイン語に似たイタリア語の響きが心地よく、ローマに恋をした外国人たちの心境は、ブエノスアイレスを歩く私にも重なるところがあったから。
映画館を出ると辺りはもう真っ暗で、冬の空気の匂いがした。お腹がすいた!そこで、プエレドン通りのエンパナーダ屋に行くことにした。ここは私がブエノスで二番目に美味しいと信じている店である。アルゼンチンのどこだったかの州のスタイルのエンパナーダを出す(どこだったか忘れた)。ボブ・マーリーやビートルズのポスターが貼ってあり、アルミのでっかいミルク缶とアジアンな家具が置き並べてあるような店である。今度は牛肉のエンパナーダと、ロクロという肉・チョリソ・豆の煮込み料理と、ペプシ・コーラを注文した。エンパナーダからは中華点心もびっくりの肉汁が滴り落ち、一人なのに「うまっ」と独り言を発せずにはおれないうまさである。ロクロは寒い日にはこれがまた一段とうまい。私は煮込み料理には目がなく、似たようなものをたぶんスペインとイタリアのどっかの田舎町(後者はシエナからバスで行ったのだけど、どうしても村の名前を思い出せない。たしか甘いワインが有名だったような。オルヴィエートでもなく。あれはどこだ?)でも昔食べたのだが、いずれも体に染み渡る美味しさであったことを覚えている。
お腹いっぱいになって帰ってきて、マテ茶を飲みながら今これを書いている。桃亀の旅だと謳っておきながら、別に全然旅をしていなかった桃亀であるが、たまには一人旅も悪くないなと思っているこの頃である。
写真は地下鉄A線で乗った電車。これまた年季の入った木製の座席に窓枠で、かわいかったので終点駅で一枚。