ここではほんとうに静かに,しかし律儀に毎日が過ぎていく。なるべく物音をたてないようにと思案して吹く冬風のように。
12月に弟がメキシコに来たときに,ある小説の文庫版を置いていった。5年ほど前にハードカバーが出たとき,買って読んだ小説だ。昔は,一度読んだ本をもう一度読むという習慣をあまりもっていなかった。一度観た映画をまた観るということも。でも最近,前に読んだ本や観た映画をよく読み返したり観直したりする。ひとつには,もの覚えが悪くなって話をよく忘れるから,ということがある。
友人であるカルラのお母さんは,観た映画を片っ端から忘れてしまうので,同じ映画を観てもある程度まで気づかないそうだ。逆にエドゥアルドは,映画に関しては記憶力がよく,あらすじはもちろん,一度観ただけでせりふまで覚えてしまうらしい。私はどちらの方向にもそう極端ではないけれど,特に結末をよく忘れる。
それから,もうひとつの理由として,話のすじよりも物語の描写の細部をたどること,ときにそれをゆっくり繰り返すことが,ここでの生活にとても合っているような気がしている,ということがある。それは,ここでの生活の中で毎日繰り返し行なう,しるしのような所作に,魔法のような意味合いをもたせる作業である。そして,記憶を旅する作業でもある。
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